うつらうつら になる前の話
私という人間の輪郭はなんとなくわかっていて、相手の輪郭もぼんやりとわかっている。
手のひらを紙の上において、その手の輪郭を鉛筆でなぞる。
ああ、これが私の「形」なんだな。
目を瞑って、相手の顔を思い出そうとするとうっすらとこの輪郭の様な「形」が思い出される。
細かく言えば、目の形とか、額と眉毛のバランスとか、そんなのもうっすらでしかなくて。結構ぼんやりしか覚えていないもんだと、寂しくなってくる。
テレビで、DNAの不思議とか人体の不思議とかをやっていると、私の体の中にもこんな精密な部品が入っていて、それを動かしているんだと感じると、もう、自分でも何が何だかわからなくなってくる。
お尻の穴とか、背中の真ん中あたりとか、口の奥の方とか、私にも見えない部分があるのだと思うと、自分でもわかんないんだから、相手のことなんてもっとわかんないはずだから仕方ない。と、諦める。諦めたい。両親の顔にホクロがあるかどうかも今、全く思い出せない。
世の中に2種類の女がいるとする。自分のことをわかっている女と、わからない女。
どっちがいいとかじゃない。でも私はわからない。まるで全くわからない。
だから好きなものをどんどん増やしていく。なりたい顔が増えていく。やりたい髪型も増えていく。塗ってみたい口紅が増えていく。したい格好が増えていく。
すると自分を見失う。
それじゃ困るんだ。
だからその輪郭に洋服を着せる。
どんな?
クッキーの星型のような洋服ではなく、まずは自ら星型を作り上げるのだ